(1) パーキンソン病、レビー小体型認知症の細胞病理機構解析

 加齢に伴って発生頻度が増加する代表的な神経変性疾患としてパーキンソン病(Parkinson’s disease)があります。パーキンソン病は無動、筋固縮、振戦などの運動機能障害を主訴とし、患者脳には中脳黒質のドーパミン産生神経細胞の変性脱落が見られます。また病理学的には特異的な細胞内封入体(レビー小体)が認められ、その主要構成タンパク質として近年αシヌクレインが報告されました (Spillantini, Nature 1997)。さらに家族性パーキンソン病の原因遺伝子としてαシヌクレインの変異や重複の異常が報告され注目されています。一方レビー小体は認知症の一つであるレビー小体型認知症(DLB, Dimentia with Lewy Bodies)においても大脳皮質や海馬、扁桃体の神経細胞に広く認められ、認知症を引き起こす1原因と考えられています。最近パーキンソン病では病期の進行と共にレビー小体が脳幹から前脳へと拡大することや(Braak仮説、2003 図1)、患者脳に胎児のドーパミン組織を移植した部分にレビー体が出現することが報告されて、αシヌクレインまたはその高次構造体が細胞間を伝播移行することが示唆されています。しかしレビー小体のような異常なタンパク質凝集体の形成機構や伝播機構についてはまだ解明されていません。これまで私たちは神経内科学教室との共同研究でαシヌクレインがタンパク分解酵素セリンプロテアーゼの1種であるニュ-ロシンにより分解されることや、ニューロシンは細胞外に分泌されてαシヌクレインを分解することを明らかにしました(Kasai et al, Neurosci Lett 2008; Tatebe et al, Neurosci Res 2010)。最近ではαシヌクレインを線維化したもの(αSyn Fibril)を培養細胞に導入するとオートファジーで分解されることや(Watanabe et al, PLoS ONE 2012)(図2図3)、海馬ではαシヌクレインの発現に興奮性と抑制性の神経細胞で差があり、細胞内凝集体の形成能は内在性のαシヌクレイン発現量に依存する可能性も示しました(Taguchi et al, PLoS ONE 2014)(図4)。さらにαSyn Fibrilを種(seed)として細胞内でレビー小体様凝集体の形成能を測定するシステムを構築して調べると、lysosome酵素が凝集活性に関与することを明らかにしました(Tsujimura et al, Neurobiol Dis in revision)。このように細胞レベルからレビー小体の形成機構や細胞間伝播機構を解明して、将来パーキンソン病やレビー小体型認知症発症の治療薬の開発に貢献できればと考えています。


(2) ストレス・情動・依存に関わる神経系解析


 私たちは2002年に発見された神経ペプチドrelaxin-3について最初に脳における詳細な発現分布やストレス応答に関与することを報告するなど、以前よりrelaxin-3神経系について、セロトニン神経系との相関、脳室内注入や遺伝子発現調節解析、遺伝子ノックアウトマウスの解析等を行ってその機能解析を進めてきました(Tanaka et al, Eur J Neurosci 2005, J Neurosci Res 2009, FEBS J 2010; Watanabe Y et al, J Mol Neurosci 2011, Front Fehav Neurosci 2011等)(図5)。最近では情動や摂食に関与するセロトニン2C受容体(5-HT2CR)についても研究を行っており、マウスを用いてアルコール慢性暴露後の飲酒量増加が前脳側坐核の5-HT2CRの関与によることを他のセロトニン受容体との比較や、選択的な阻害剤を使った実験で証明しました(Yoshimoto et al, Eur J Neurosci 2012)。この5-HT2CRはGタンパク質共役型受容体で、mRNAの段階でRNA編集をうけアミノ酸配列が変化することが知られています(Nishikura, Nat Rev Mol Cell Biol 2006)(図6)。慢性アルコール暴露後の飲酒量変化がマウス系統によって異なることが知られています。私たちはアルコール摂取量の増加するC57BL/6J系では側坐核で5-HT2CRとRNA編集酵素発現、およびRNA編集率が増加すること、一方飲酒量の増加しないC3H/HeJ系とDBA/2J系のマウスではこれらの変化が認められないことを発見しました(図7)。さらに米国Wistar 研究所との共同研究でC57BL/6J系の5-HT2CRのRNA編集が起きない遺伝子改変マウスでは野生型と異なって慢性アルコール暴露後の飲酒量が増加しないことを見つけ、5-HT2CRのRNA編集率の変化がアルコール嗜好性を決めていることを示しました(Watanabe et al, Int J Neuropsychopharmacol 2014)。現在ウイルスベクター(AAV)を使って、局所的に側坐核の編集酵素の働きを抑えると飲酒量はどうなるのかについて調べております。このようにrelaxin-3や5-HT2CRのようなストレス・情動・依存に関与する神経系を特定の分子機構から解明する研究にも取り組んでいます。