京都府立医科大学での小児がん治療

小児がんとは?

横紋筋肉腫

横紋筋肉腫ってどんな病気?

 横紋筋肉腫は、自分の意思で体を動かすときに使う筋肉(骨格筋といいます)に将来なるはずの未熟な細胞から発生した悪性のできもの(悪性腫瘍)、つまりがんと考えられています。横紋筋肉腫は、軟部組織(骨格筋など)や結合組織や骨から発生するがん(肉腫)の一つです。実際には、骨格筋以外、膀胱や前立腺、睾丸(精巣)、鼻の中、眼の奥、腹部や胸部の内臓、肛門など、身体のあらゆる部位から発生します。横紋筋肉腫の患者の約7割が10歳未満(1歳未満は5%)に診断されますが、思春期の若者や成人にも発生します。小児がんの5~8%を占めるに過ぎない比較的まれながんですが、小児の肉腫のなかでは最も頻度の高いがんです。発生頻度は、年間100万人あたり4~5人、わが国では年間90人程度と推定されています。

横紋筋肉腫はどうしてできるの?

 ほとんどの場合不明です。いくつかの遺伝性疾患のある小児では、横紋筋肉腫の発生リスクが高くなることが知られています。しかし、必ずしも発生するわけではありませんので、以下の遺伝性疾患のあるかたは主治医に相談してください。

リー・フラウメニ症候群、神経線維腫1型(NF1)、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群、コステロ症候群、ヌーナン症候群、MEN2A症候群。

どこにできるの?どんな症状がでるの?

 膀胱、前立腺、睾丸、子宮、膣などの泌尿生殖器、鼻の中、喉の奥、耳の奥、眼の奥などの顔や首、手足などの四肢、といったあらゆる部位に発生します。症状はできた部位によって様々で、しこりを触れるだけでなく、しこりがまわりの臓器を圧迫・閉塞することにより生じます。増大し続けるしこりを触ったり、尿に血が混じる、尿がでにくいといった排尿の問題、不正出血、腹痛、鼻づまり、眼の腫れなどの症状が認められます。また、場合によっては、リンパ節や骨など、はじめにできた部位とは離れたところに移る(転移といいます)ことがあり、転移した部位の症状で気づかれることがあります。

横紋筋肉腫が疑われた場合どのように診断しますか?

 症状より横紋筋肉腫が疑われた場合、手術する前に検査を行い、最初に腫瘍ができた部位がどこか、まわりあるいは離れた部位への転移がないか、など手術前の病気のひろがりや大きさ(術前ステージ分類と言います)を調べ、手術により横紋筋肉腫であるのかを顕微鏡で詳しく調べて診断します(病理診断)。ここでは、比較的治りやすい種類か、治りにくい種類か(組織型と言います)も、病理診断で判定します。

手術前の検査

 手術前の検査として、超音波、CT、MRI、骨シンチなどの画像検査、骨髄検査(血液を造る骨の中にある部位に転移していないか針を刺して調べる)と髄液細胞診(画像で脳に転移していないか腰に針を刺して調べる)を行います。最近は、PET検査も行われることがあります。
 横紋筋肉腫にはこれまで、手術する前に血液検査で診断できるような、特異的な腫瘍マーカーがありませんでした。最初から取りきれないような大きな腫瘍でも必ず、生検と言って、手術で腫瘍の一部を切り取って病理検査に出さなければいけません。手術して初めて横紋筋肉腫であることや、逆にないことがわかります。私たちの京都府立医科大学小児科では、血液中に腫瘍から漏れ出しているマイクロRNAという物質が横紋筋肉腫の腫瘍マーカーとなることを発見し、実用化を進めています(詳しくはこちらをご参照ください)。最終的な診断は腫瘍の病理診断ですが、血中マイクロRNA検査は手術前の有力な予測情報となり、治療の効果判定に継続的に活用できるため、よりよい横紋筋肉腫の治療に役立てられると考えています。

予後良好部位と不良部位

 腫瘍のできた部位(発生部位)は、これまでの治療成績の結果から「予後良好部位(比較的治りやすい場所)」と「予後不良部位(比較的治りにくい場所)」に大別されます。

予後良好部位
 眼の奥、頭や首の周囲(ただし脳と脊髄に隣接する組織には及んでいない)、睾丸や膣などの泌尿生殖器(ただし、膀胱、前立腺を除く)、胆汁の通り道(胆道)
予後不良部位
 鼻の奥(副鼻腔)などの脳と脊髄に隣接する部位にできたもの(傍髄膜と言います)、膀胱、前立腺、手足、お腹や背中など、前者以外のすべての場所がこれにあたります。
術前ステージ分類
ステージ1
 予後良好部位にがんが認められます。大きさや近くのリンパ節転移の有無によりません。
 離れた部位への転移(遠隔転移)はみられません。
ステージ2
 予後不良部位にがんが認められます。腫瘍の大きさは5cm以下で、近くのリンパ節転移や遠隔転移はみられません。
ステージ3
 予後不良部位にがんが認められ、なおかつ以下の条件の1つが満たされます。腫瘍の大きさが5cm以下で、さらに近くのリンパ節にがんの転移がみられる。腫瘍の大きさが5cmを超えていて、さらに、近くのリンパ節への転移がみられる場合もある。
ステージ4
 肺、骨髄、骨などの離れた部位に遠隔転移を起こしています。腫瘍の大きさや近くのリンパ節への転移の有無にはよりません。
病理診断

 横紋筋肉腫は、病理診断が難しい場合があり、専門の病理医による中央病理診断が重要とされます。横紋筋肉腫の診断とともに、組織型の診断が行われます。大きく2群に分類され、それぞれの特徴を以下に示します。

胎児型群
 ほとんどの場合、頭頸部か生殖器官または泌尿器に発生するもの。これは最も一般的な種類です。比較的治りやすいとされています。紡錘細胞型、ブドウ状型、胎児型にさらに分類されます。
胞巣型群
 ほとんどの場合、腕または脚、胸部、腹部、もしくは生殖器、肛門部に発生するもの。通常は10歳代で発生します。
 特徴的な遺伝子異常をもち、病理診断が難しい場合に、これを調べることで診断できることがあります。われわれの京都府立医科大学では、この検査を迅速に行うことが可能です。胞巣型は、胎児型にくらべて、治りにくいと考えられています。
 未分化肉腫もこの群に含めて治療することがあります。

横紋筋肉腫はどのように治すのですか

 横紋筋肉腫は、抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療が良く効くため、これらと手術とを上手に組み合わせて治療(集学的治療と言います)します。治る(再発しない)患者さんが一人でも多くなるよう、また、治療の副作用が少しでも少なくなるよう、横紋筋肉腫の治療を向上させる治療研究が全世界で今も続けられています。
 世界最大で最も歴史のある横紋筋肉腫治療研究グループである米国のIntergroup Rabdomyosarcoma Study Group(IRSG)、現在COG(Children Oncology Group)-STS(Soft Tissue Sarcoma Committee)は、30年以上におよぶ多数例の経験と臨床試験の結果から、発生部位ごとの外科治療ガイドラインや、放射線治療の時期・あてる範囲・放射線量を詳細に規定した放射線治療ガイドラインを設定しています。日本で2004年から開始した横紋筋肉腫の治療研究(日本横紋筋肉腫研究グループ:JRSG)では、このIRSGの治療ガイドラインをベースに、日本独自の治療法も試験しています。5年無病生存率(5年間再発なしに患者さんが生存している割合)は、最近のCOG-STSのデータでは、低リスク群、中間リスク群、高リスク群の各々で、80%以上、50~80%、30未満~50%と報告されています。

手術

 横紋筋肉腫は、最初に腫瘍を取り除くことができれば、治りやすいとされています。しかし、横紋筋肉腫は、しばしば周りの正常な部分や臓器を巻き込んでおり、腫瘍を残らず手術で取り除こうとすると、正常な部分を大きく損なったり、機能を損なったりすることがほとんどです。このような場合には、最初から手術で腫瘍を全部取らず、病理診断のために必要なごくわずかな部分のみとします。これを生検と言います。手術をどうするかは、できた部位によって異なっており、生検だけ行った後に化学療法や放射線治療を行うべき部位と、最初に可能な限り腫瘍をとり除くことを目指す部位とがあります。
 例えば、四肢、体、頭頸部などのうち表面のみに腫瘍が限られ、見た目や機能を損なわず取り除くことが可能であれば、治療の最初に手術を行って取り除きます。一方、予後良好部位である頭頸部、眼の奥(眼窩)や膣、外陰部、胆道の横紋筋肉腫は、最初に手術することができず、生検のみにとどまることが多いにもかかわらず、化学療法、放射線治療を先行することで治ることが多いとされています。

術後グループ分類

 最初の手術で元々あった腫瘍をどの程度とり除くことができ、どのくらい残ったのかを、術後グループ分類で分類します。

グループⅠ
 がんが最初に発生した部位にとどまっていて、なおかつ手術によって完全に摘出された場合です。病理医が顕微鏡で観察しても、がん細胞の残存は認められません。
グループⅡ
 グループⅡA期、ⅡB期、ⅡCに分けられます。
 ⅡA:がんが手術で摘出されたが、病理医が顕微鏡で観察すると、がん細胞の残存が認められる。
 ⅡB:がんが近くのリンパ節に転移していたが、がんとそのリンパ節は手術で摘出されている。
 ⅡC:がんが近くのリンパ節に転移していたが、がんとそのリンパ節は手術で摘出されている。
 病理医が顕微鏡で観察すると、がん細胞は認められます。
グループⅢ
 がんは手術で一部しか取れなかった場合、あるいは生検のみを行われた場合です。
グループⅣ
 がんが診断の時点ですでに遠隔転移を起こしているものです。
リスク分類

 米国やわが国では、先ほどの術前ステージ分類、術後グループ分類、組織型、年齢などにより、治りやすさ、治りにくさを判断して分類します(リスク分類と言います)。このようにリスク分類することで、治りやすい群(低リスク群)には、不妊や二次がんなどの晩期合併症なく治るように治療しています。先のわが国の日本横紋筋肉腫研究グループ(JRSG)では、我々の教室の細井教授が、リスク群の判定担当者、低リスク群の主任研究者を務めてきました。

化学療法

 初診時に遠隔転移が認められず、原発腫瘍が全摘除できた症例も含め、すべての横紋筋肉腫患者に化学療法は必須です。横紋筋肉腫の化学療法の標準的治療は、ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロフォスファミドの3剤併用治療を繰り返す方法(VAC療法)です。治療成績がここ30年改善していない高リスク群では、新規抗がん剤を取り入れた新しい治療法をVAC療法と比較検討する試験が行われています。日本では自己末梢血幹細胞移植を併用した超大量療法の効果が検討されました。

放射線治療

 成長期の小児には、放射線照射した部位の体の成長が抑制されるなどの副作用(晩期合併症)があるため、かつては放射線治療の減量や省略が試みられていました。しかし横紋筋肉腫では、「最初に手術で病理組織学的にも完全に腫瘍が取りきれた胎児型例」を除くほぼ全例において、腫瘍がもとあった場所に放射線照射を行わないと再発を予防できないというのが、現在の一致した見解です。放射線をあてる時期や量、範囲は、腫瘍の発生場所や拡がり、手術での腫瘍の取れ方、組織型などによって、細かく規定されています。短期や長期の副作用・合併症を最小限にするため、小児の放射線治療専門医との連携が必須です。