研究のご案内

腫瘍グループ

神経芽腫研究について

神経芽腫患者の腫瘍より樹立した初代細胞培養株

当科では、澤田淳名誉教授が神経芽腫マス・スクリーニングを世界で初めて開始されたことから、神経芽腫に対する基礎研究、臨床研究が盛んにおこなわれています。

経芽腫マス・スクリーニングと当科における神経芽腫臨床研究

神経芽腫、副腎、あるいは交感神経幹に発生するがんであり、発生率は、わが国で年間およそ200人程度と考えられています。大きく、予後良好群(治りやすいタイプ)、予後不良群(治りにくいタイプ)の2つに大別されることが古くから知られています。予後良好群は、ごく軽い抗がん剤治療でも治りやすく、一部の患者では、全く治療しなくても自然に治ってしまう(自然退縮)こともあります。一方で、予後不良群は、強力な抗がん剤治療や手術、放射線療法を行っても40%程度の生存率と言われています。しかし、最近の基礎研究の進歩と、この2つのタイプをより早期診断して、適切な治療を行うという努力によって、治療成績は少しずつ向上しています。

神経芽腫が発生しやすい年齢は、およそ生後6ヶ月前後と3歳前後といわれています。生後6ヶ月前後で発症する神経芽腫はほとんどが予後良好群であるのに対して、3歳前後で発症する神経芽腫のほとんどは予後不良群であったことから、生後6ヶ月前後で早期に神経芽腫の有無が発見出来れば、予後不良群の患者も早期に治療が行え、3歳前後で発症する予後不良群を減らせるのではないか、との考えられるようになりました。そこで、全国のすべての乳児を対象に、神経芽腫の検診(マス・スクリーニング)を行い、早期にがんを発見して治療を行う、という試みがわが国で行われました。

1974年から乳児を対象とした神経芽腫マス・スクリーニングが、世界で初めて、京都で開始されました。神経芽腫のマス・スクリーニングは、腫瘍から分泌されるカテコラミンの代謝産物がVMA(バニリルマンデル酸)、HVA(ホモバニリル酸)として尿に排出されることに着目し、これを腫瘍マーカーとして測定し、NBの有無を診断する、という方法が行われました。乳児が生後6ヶ月になった時に尿を採取して送付するだけで、神経芽腫の有無がわかる、という画期的な方法でした。1985年にはマス・スクリーニングは全国的に施行されることとなり、さらに、イギリス、ドイツ、フランスなどの海外にも拡がりました。

しかし、マス・スクリーニング施行の結果、神経芽腫と診断される乳児の数は急増しましたが、手術の合併症、神経芽腫全体の死亡率が減少していなのではないか、ということが問題となりました。マス・スクリーニングによって発見された神経芽腫は大半が予後良好群であることが分かり、予後不良群はマス・スクリーニングでは発見出来ないのではないかとも考えられるようになりました。そのころ、ドイツ、カナダで大規模な神経芽腫マス・スクリーニングの有効性を調べる試験が行われ、乳児期マス・スクリーニングでは神経芽腫の死亡率を低下させることは出来ない、との報告が同時になされました。
日本では疫学調査がまだ不十分であり、マス・スクリーニングが統計学的に死亡率を減少させているとの反論ができなかったため、厚生労働省は、2004年にマス・スクリーニングを一旦休止しました。また、その再開の条件として、「神経芽腫の診断と治療の向上のための研究を推進すること」、「マス・スクリーニングの実施体制の確立」を掲げました。

マス・スクリーニングの休止後も、神経芽腫の子どもをなんとか治したい、という澤田名誉教授の想いを受けつぎ、我々は引き続き、神経芽腫の診断と治療の研究を行っています。広島大学の檜山英三教授に主任研究者となっていただいた厚生労働省の神経芽腫マス・スクリーニングの研究班に参加・協力し、我が国における神経芽腫マス・スクリーニング受験者の大規模な疫学調査を行いました。当科が中心となって、毎年全国160以上の病院施設に調査票を送付して、神経芽腫マス・スクリーニングでの発生患者を調査するという作業は、歴代多数の教室医師が携り、28年以上にわたって継続され、データが蓄積されました。その調査は非常に地味なものでしたが、そのデータは2500例を超え、これらのデータと小児外科学会からのデータ、死亡届を基に2300万人を超えるコホート研究として、世界に類を見ない大規模研究の結果を報告できたのです。この結果をご紹介します。

マス・スクリーニング開始前の神経芽腫による累積死亡率(対10万人)は5.01ですが、マス・スクリーニング開始後では、スクリーニング受診者の神経芽腫による累積死亡率が2.19であったに対し、非受診者の累積死亡率は4.19と高い結果でした。特にHPLC法という感度の高い検査法でスクリーニングを受けた受診者の死亡率の低下は10万人当たり2.77人でした。この理由として、マス・スクリーニング施行によって、予後不良群が早期に発見されたことにより死亡率が低下したためと考えられ、死亡率減少という観点から、マス・スクリーニングによって診断された乳児の中からいかに治療の必要な予後不良群だけを見分けるか、という新たな方法が求められるようになりました。

図1:6か月時神経芽腫マス・スクリーニングの効果について:日本の大規模解析の結果

神経芽腫の予後不良群にはいくつかの特徴的な遺伝子異常があり、その異常遺伝子の有無を調べることによって、予後不良群を見分けることができる可能性がわかってきました。わが国の神経芽腫マス・スクリーニングで発見された乳児のデータも解析結果から、マス・スクリーニングで発見された神経芽腫乳児の中にも、約2.6%にMYCN遺伝子増幅という遺伝子異常を認め、予後不良であることが明らかになりました(図2)。つまり、乳児期に発症する神経芽腫でも放っておけるものばかりでなく、100人に2人から3人は、急いで積極的な治療が必要だということです。そのため、このような予後不良群に特徴的な遺伝子異常を、神経芽腫マス・スクリーニングと同じような非侵襲的な方法で診断できれば、治療の必要な患者さまがより正確に診断できるようになると考えられました。

図2:乳児神経芽腫でもMYCN遺伝子増幅があれば協力な予後不良遺伝子

このような遺伝子診断を行うためには、手術でがんの一部を摘出して、それは検査する必要があります。当科では、がん細胞から極微量のみ血液中に放出される遺伝子(血清中遊離DNA)を用いてがんの遺伝子異常の有無を診断する方法を開発し、スクリーニングに応用することができないかどうか研究を続けています。現在までの研究で、神経芽腫の予後不良群にのみ認められる遺伝子異常である、MYCN遺伝子増幅、11番染色体長腕欠失(11p loss)、がん遺伝子のメチル化異常などを、血清中遊離DNAを用いて診断する方法を開発しました(図3)。つまり、普段行っている血液検査のための採血の余りのごく微量(0.5㏄で充分です)の血液を用いるだけで、手術を行わなくても予後不良な神経芽腫かどうかが判定できるという方法です。神経芽腫の患者が乳児を中心とした低年齢であることから、この血液を用いるだけで、手術を行わなくても予後不良な神経芽腫かどうかが判定できるという方法です。神経芽腫の患者が乳児を中心とした低年齢であることから、この血液を用いがんの遺伝子診断法は、国内外で高く評価され、杉本徹前教授、細井創教授、後藤高弘医師は平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)を受賞しました。また、全国の施設より、血液を用いた遺伝子解析の依頼を受けており、神経芽腫の迅速な診断と適正な治療に貢献しています。

図3:血清中遊離核酸を用いた神経芽腫の遺伝子診断-血清中MYCNがん遺伝子増幅の検出

当科で開始した神経芽腫マス・スクリーニングと、当科で開発した血清中遊離DNAによる遺伝子診断を組み合わせることにより、尿検査と血液検査のみで手術の要否を含め、手術をする前から予後不良な神経芽腫患者を早期に発見し、適切な治療が行える可能性があります。また、現在乳児に発生した転移のない神経芽腫患者に対し、血清中遊離DNAによる遺伝子診断で予後良好群と判断された乳児の中で、条件のあった方に対して、「無治療経過観察」(自然退縮を期待して、がんを持った状態でも手術や抗がん剤治療を行わずに詳細に経過観察を行う方法)を行うことも可能と考えられ、現在臨床試験を計画中です。

進行神経芽腫に対する基礎研究と新規治療法の開発

予後不良な神経芽腫に対しては、強力な抗がん剤治療、手術、放射線治療、自己末梢血幹細胞移植を併用した超大量化学療法などが行われますが、その半数は再発してしまいます。そのため、従来行われてきた治療を行うのみではなく、神経芽腫の発生原因を研究したり、新規治療法を開発するといった基礎研究が重要です。当科でも澤田名誉教授、杉本名誉教授の時代より、現在の細井教授の時代に至るまで神経芽腫に対する基礎研究を盛んに行い、成果を公表してきました。

進行神経芽腫がなぜ予後不良なのか、については長い間十分に解明されていませんでしたが、1983年に神経芽腫のMYCN遺伝子増幅という異常が、強い予後不良因子となることが報告され、一気に研究が進むようになりました。また、この遺伝子異常がなぜ神経芽腫を予後不良とするのかを解明すれば、新しい治療につながるのではないかと考えられるようになり、多くの研究者が神経芽腫のMYCN遺伝子について研究を行いました。当科でも神経芽腫細胞株を用いてMYCN遺伝子発現の解析を詳細に行い、細胞増殖因子であるIGF-1によってMYCN遺伝子が高発現し、悪性化につながっていることを明らかにしています。

図4:FISH法によるMYCN遺伝子増幅診断
赤:2番染色体  緑:MYCN遺伝子

また、MYVN遺伝子増幅を持たない神経芽腫にも予後不良なものは多数存在しますが、MYCN遺伝子増幅以外の予後不良因子としてTrk遺伝子の異常が報告されています。当科でも、神経芽腫のTrk遺伝子発現を詳細に解析し、Trk遺伝子異常と神経芽腫の悪性化について多数報告しています。また、当時画期的であった遺伝子解析法であるComprehensive Genomic Hubridization(COG)法を用いて、予後不良な神経芽腫の遺伝子を網羅的に解析し、17番染色体の増加を持つ神経芽腫が予後不良であることを明らかにしました。

治療の面でも、最近成人がん領域で多数使用され始めている分子標的薬の神経芽腫への応用を検討しています。mTOR阻害剤であるラパマイシンの神経芽腫に対する効果や、Fenretinoid、Gefitinib(イレッサ?)などの神経芽腫に対する有用性を報告しています。

その他、多数の神経芽腫の基礎研究について報告をしております。詳細は下記のリンクもご参照ください。

現在も神経芽腫に対する基礎研究、臨床研究を多数行っております。
以前は不治の病であった神経芽腫を「なんとか治したい」をいう強い情熱を持って、日々研究中です。

参考文献

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=kyoto%20Prefectural%20University%20of%20Medicine%20Pediatrics%20neuroblastoma