B.呼吸管理処置各論

機械的人工呼吸法

1)人工呼吸の適応

(A)絶対適応参3)

1.不適正な肺胞換気
・無呼吸
・PaCO2>50-55mmHg(慢性の高炭酸ガス血症を除く)
・切迫した低換気状態PaCO2の上昇
Vital Capacity<15ml/kg
VD/VT>0.6

2.動脈血の不十分な酸素化

・チアノーゼ(FIO2≧0.6にて)
・PaO2<70mmHg(FIO2≧0.6にて)
・その他の酸素化能障害の指標A-aDO2>300mmHg(FIO2=1.0)
S/T>15〜20%

 

(B)相対適応

1.換気パターン、機能の保持
・頭蓋内圧亢進
・循環不全
 

2.呼吸による代謝消費量を減らす

・慢性呼吸不全
・循環不全

 

2)人工呼吸モード

(A)作動方式

呼気、吸気及びそれぞれの移行期の各時相別に作動方式を分類して理解する。

 

人工呼吸器作動の4つの時相
1.吸気相
2.吸気から呼気への転換相
3.呼気相
4.呼気から吸気への転換相

1)吸気相メモ7)
 流量測定方式(flow regulated)
 圧規定方式 (pressure regulated)h

2)吸気から呼気への転換相
 時間サイクル式(time cycled)
 圧サイクル式(pressure cycled)
 容量サイクル式(volume cycled)
 流量サイクル式(flow cycled)

 

3)呼気相
 圧規定方式(pressure regulated)
  呼気終末陽圧法(PEEP)
  呼気終末陰圧法(NEEP)
 呼気抵抗負荷方式(expiratoey-retarded)

4)呼気から吸気への転換相
 時間サイクル方式(time cycled)
 患者サイクル方式(patient cycled)
 患者/時間サイクル式(Patient/time cycled)

メモ6)EIP(end-inspiratory plateau)
吸気の終了時に呼気弁を閉鎖させることにより肺胞を広げた状態を保つ。

メモ7)成人で用いられるPCVやPSVは、気道内圧を設定値に保つように吸気流速をコントロールしている。これに対し、小児で用いられる方式では一定流量でガスを送り圧リリーフバルブで気道内圧を一定に保っているために気道内圧波形は流量により微妙に変化する。以下に差異を示す。

 

(B)方法

1.CMV(continuous mandatory ventilation:持続的強制換気)
全ての吸気に強制換気を用いる場合、流量もしくは圧規定メモ8)

・呼気相にZEEPを用いるとIPPB, PEEPを用いるとCPPB
・吸気相への転換が時間サイクル式の場合を調節換気controlled, 患者サイクル式の場合を補助換気assistedメモ9)と呼ぶ。

メモ8)PCV(pressure controlled ventilation)
吸気に圧規定方式を用いたCMVであるメモ7)
漸減波の吸気流速波形を用いて気道内圧を急激に設定レベルにまで上昇させ、規定された時間そのレベルを維持する。時定数の大きい膨らみにくい肺胞の拡張が良好で、不均等換気が是正される利点がある。以下に従来の換気とPCVの差異を示す。

メモ9)調節/補助換気(assist/controlled:A/C) 
assisted mandatory ventilation:AMVともいう。通常は患者サイクル式が優先されるが、患者の吸気トリガー゙が一定時間ない場合に時間サイクル式となる場合。

2.IMV(intermittent mandatory ventilation)
 自発吸気に加えて間欠的に強制吸気が混在している場合。強制吸気が患者努力と同期して行われる場合をSIMV(S:synchronyzed)と呼ぶ。

3.PSV(pressure support ventilation;圧支持換気)
 すべての吸気が圧支持吸気からなる場合

・吸気開始:患者サイクル式
 吸気終了:吸気流速の低下(一般的には最大吸気流速の25%あるいは5%)
 一呼吸ごとにこのタイミングが決定されるため人工呼吸器との同調がよい。
・患者仕事量の軽減、呼吸筋疲労の回避などの利点があり、人工呼吸器からの離脱に特に有用。
・圧補助レベルの目安

5〜10cmH2O:気道内チューブと人工呼吸器の抵抗による仕事量が代償
10cmH2O以上:患者の呼吸仕事量が軽減

・トリガーレベルの設定:
 患者吸気の開始は圧低下(圧トリガー)又は流量変化(フロートリガー)による。小児では、感度が良くサポートの遅れによる負荷が少ないフロートリガー方式が良いが、鋭敏すぎる感度設定によるオートサイクリングの発生に注意する。
・フローの設定:
 流速が速すぎると気道内圧のオーバーシュートを来す。少なすぎると目標のサポートレベルに達しなくなることがある。

注)小児に対するPSV
 小児では、気管チューブを含む細かい気道に起因する高い気道抵抗から、PSVの適応が従来は困難であった。
 近年、バイアスフローとフロートリガーの開発により、PSVの負荷を少なくし、新生児にまで適応される機種(サーボ300, NPB840等)も出現している。

4.CPAP(Continuous positive airway pressure)
 すべての吸気は自発吸気で、PEEPの負荷により呼吸サイクルの全般にわたって気道内圧を陽圧に保つメモ10)。新生児ではむしろ呼吸負荷となるため用いないことが多い。

 

メモ10)回路内ガス流制御方式
小児では呼吸負荷の少ない定常流方式が有利である。最近では定常であるベース流と吸気流とを別設定して、より呼気抵抗が少なくなる方式がとられている(ベアーカブ750VS等)。また、呼気弁を廃止し逆噴射により陽圧吸気を作る定常流回路(ニューポートSLE2000)も存在する。
デマンドフロー方式(demand flow)
自発呼吸があった時にバルブが開放され、呼気ガスが流れる。(圧もしくはフローを感知)
吸気がはじまるまでガスは流れない。
利点:1.ガス消費量が少ない。
    2.患者の吸気に合わせてガスが流れる。
    3.十分な吸気フローが得られる。通常100l/分程度。
欠点:1.機械によって吸気フローが不足することがある。
    2.呼吸仕事量が増えることがある。(バルブを開放するための吸気努力を要する)
回路内定流方式(continuous flow)
患者の呼吸によらず常時呼吸回路内にガスを流し続ける。
自発呼吸をした時には既に流れているガスを吸うことができ、自然な吸気に一番近い方法である。
利点:1.反応時間が「0」と早いので自発呼吸が楽である。
    2.肺内が陽圧になりにくい。
    3.炭酸ガスの回路内洗い出し効果もある。
欠点:1.流量により呼気抵抗になることがある。(PEEP様の効果)
    2.大きい吸気に対してフローが不足することがある。s

 

(C)急性肺損傷に対する呼吸器設定の原則と関連用語

1.呼吸器設定の原則

 急性肺損傷患者に対する呼吸器設定においては、高いPEEPにより肺胞開存を維持し酸素化能を良好に保つとともに最高気道内圧の制限により圧損傷を防ぐという考えが主流となっている参9)メモ11)12)。気道内圧波形のイメージは以下のようになる。
・急性肺損傷における呼吸設定のイメージ(波線に示す)。

1.PIPの減少
2.吸気時間の延長
3.PEEPの増加

 

メモ11)Permissive hypercapnia
最高気道内圧を減じPEEPを増やすという制限された換気条件設定の結果として生じる高炭酸ガス血症を肺保護の立場から容認しようとする考え。成人では気道内圧上限を35mmHg付近、PaCO2の許容上限は60〜80mmHg付近とされている。
メモ12)虚脱した肺胞を開存させるPEEP圧と肺障害をきたさない最高気道内圧を用いる必要がある。このために圧容量曲線から、lower inflection point(LIP)及びupper inflection point(UIP)を求め、PEEPはUIPより高く、最高気道内圧はUIPより低く設定する参10)。実際には至適圧の決定は困難である。

参考文献
9) Snyder JV : The open lung approach : Concept and application. In : Snyder JV, Pinsky MR, eds. Oxygen Transport in the Critically III, p373, Year Book Medical Publishers, Chicago.
10) Amato MBP, et al : Beneficial effects of the "open lung approach" with low distening pressures in acute respiratory distress syndrome. Am J Respir Crit Care Med 152 : 1835, 1995.

 

2.換気法

上記の考えから派生したいくつかの換気法について簡単にまとめる。

a.IRV(inversed ratio ventilation)
 吸呼気比を1以上に設定する方法。吸気時間を長くすることにより時定数の大きい肺胞の拡張が得られ、呼気時間が短くなることによるauto-PEEPの発生により酸素化能が改善する。

b.PEEPの可変による換気法(APRVメモ13,BIPAPメモ14)
・PEEPレベルを周期的に変動させる。基本的にはCPAPであるため自発呼吸が可能であり、PEEPレベルの増減により機械的な換気補助が負荷される。
・高圧相(高いPEEPレベル):周期的にFRCを増加させて酸素可能を改善。
・低圧相(低いPEEPレベル):高圧相でおこる自発呼吸の換気量減少と胸腔内圧上昇を解除。
・高圧相と低圧相の圧差:機械的な換気補助となる

メモ13)APRV(airway pressure released ventilation)
高いPEEPレベルを短時間低いPEEPレベルに開放する。自発呼吸が存在しなければIRVに同じ換気様式となる。
メモ14)BIPAP(biphagic positive alveolar pressure)
一定時間ごとに低いPEEPレベルを高いPEEPレベルに上昇させる。自発呼吸が存在しなければCPPVになる。

 

3)小児の人工呼吸療法

 乳児期以前と幼児期以降について、体重10kg付近を目安に区分して管理することが望ましい。幼児期以降では、成人と同様の流量制御方式を用いることが可能と考えられる。乳児期以前では、成人と異なる特別な配慮が必要と思われるので、以下これを中心に詳細を述べる。また、未熟児新生児においては特に注意すべき事項が存在するので別項に記した。

(A)様式設定上の注意

・未熟な呼吸筋
 人工呼吸回路の呼吸負荷が大きい→呼吸仕事量の軽減を図る
・圧および酸素により肺障害について配慮する

以上を考慮した望ましい人工呼吸様式は、
・呼気定常流+吸気可変流
・patient triggered ventilationメモ15) 
・圧規定方式の吸気相(PS,PCV)

メモ15)PTV(Patient triggered ventilation)
患者口元のセンサーによって患者同調式の補助換気が行える。


(B)人工呼吸管理の実際

実際の設定方法と離脱までの流れを述べる。

1.患者自発呼吸が無く機械サイクルによる吸気のみの状態(気管内挿管直後など筋弛緩薬投与時)
モード 圧制御方式吸気相(Assist/contまたはSIMVモード)メモ16)
呼吸回数設定 年齢別生理的値を参考に設定
吸気時間設定 I/E比=1:2を目安
最高気道内圧設定 圧損傷の防止を考慮しつつ、換気量モニターにて8〜10ml/kgを目安に設定。患者呼吸コンプライアンス低下による換気量減少に注意。
PEEP設定 3〜4cmH2O(生理的PEEP)
酸素濃度設定 酸素中毒(高濃度酸素による肺障害)を考慮しつつ
FIO2<0.6, PaO2>70mmHgとなるように設定
定常流量設定 分時換気量の3倍以上を目安メモ17)
アラーム設定 最高気道内圧下限=設定最高気道内圧−3〜5cmH2O
PEEP圧下限=PEEP−1〜3cmH2O

メモ16)患者自発呼吸が存在しない場合にSIMV及びA/C両モード間に換気様式の違いはなく、ともにCMVである。患者自発呼吸が出現した場合に、SIMVモードの設定換気回数は最高補助換気回数を示し、A/Cモードでは最低(バックアップ)補助換気回数を意味するという大きな差異が生じる。
メモ17)多すぎる定常流は呼気抵抗となり、少なすぎると深吸気時に流量不足となる。



2.自発呼吸の出現後

適正値に自発呼吸トリガーを設定メモ18)→患者サイクルによる吸気へ移行

メモ18)適正なトリガー感度とは回路リークや分泌物振動によるautocycleの発生を防止し、かつ最も鋭敏な閾値であり、個々の患者に最適の値を探る必要がある。


3.離脱過程(ウィーニング)

一回換気量、呼吸数を指標に最高気道内圧の調節によりサポート圧を減らして行くメモ19)
呼吸数の多い小児においては、自発呼吸の出現につれ吸気時間が相対的に延長しauto-PEEP効果を生じることに注意が必要。

メモ19)フロートリガーによるPTVを用い、A/C(AMV)モードにより気道内圧を減じてゆく方法は成人におけるPSVに類似した換気様式となり最も患者同調が良く望ましい方式と思われる。これに比べ(S)IMV回数を減じる方法は患者同調の面で劣る。
メモ20)適切な呼気ターミネーション感度の設定が重要。

 

(C)人工呼吸器離脱

1.離脱条件

a.呼吸器条件
 現在市販されている人工呼吸器を用いた場合、新生児、乳児では離脱を進めてサポート圧を下げていった場合、5cmH2O以下のサポート圧では呼吸回路等による負荷が大きくなりすぎる。このため補助圧が3-5cmH2O、(S)IMVを用いた場合は3-5回/分となった時点を最終目標とする。

b 患者側指標
 合併疾患等により異なるが大まかな目安は以下の通りである。

1)酸素化能が適正
・PaO2>70mmHg/FIO2<0.4
・QS/QT<10〜20%

2)肺胞換気が適正
・PaCO2が正常
・乳児:Vital Capacity>15ml/kg, Maximum negative inspiratory force>-45cmH2O
・年長児:Vital Capacity>10ml/kg, Maximum negative inspiratory force>-20cmH2O
・死腔換気率(VD/VT)<0.6

3)酸素代謝に影響する他の状況が整っている
・酸素供給量低下:高度の貧血、循環不全がない
・酸素消費量上昇:発熱、敗血症、けいれん等がない

4)意識清明、嚥下、咳そう反射正常

2.準備

・再挿管の用意
・酸素投与の用意
・ネブライザー(参照)
・声門浮腫に対する対策メモ21)
   喉頭ファイバーの準備
   ステロイド投与メモ22)
  
メモ21)声門浮腫の発生は挿管期間、年齢により影響を受ける可能性があるが予測因子は確立していない。
メモ22)デキサメサゾン(デカドロン) 0.3-0.5mg/kgが使用されるが、その有効性は確立していない。

 

(D)人工呼吸中患児の管理

1.人工呼吸中の鎮静

a.意義
・人工呼吸器との同調性を高める
・筋運動消失、代謝減少により酸素消費量を減じる
・吸引刺激を減じる
・自己抜管の危険性を減じる

b.評価法
成人ではRamsayの鎮静スコアが有名であるが、小児を対象とした良いスコアはない。

Ramsayのsedation score

スコア 鎮静状態
SS1 不安、不穏状態
SS2 協力的、協調性があり、落ち着いている
SS3 命令にのみ反応、globar tapや大きい声に反応する
SS4 眠っているが刺激に対してはっきり反応する
SS5 眠っており刺激に対してのろのろした反応
SS6 無反応

 

c.薬剤
鎮静薬      
麻酔性鎮痛薬 
筋弛緩薬メモ23) 
ミダゾラム、フルニトラゼパム、プロポフォール
フェンタニル、モルヒネ
ベクロニウム、バンクロニウム

a)フェンタニルとベクロニウムによる方法
循環系への影響が少ないため特に開心術後の鎮静法として望ましい。 
 
新生児
乳児
フェンタニル 2μg/kg/hr
フェンタニル 4μg/kg/hr
ベクロニウム 0.04mg/kg/hr
ベクロニウム 0.08mg/kg/hr

b)ミダゾラムによる方法
単独法又は鎮痛薬との併用
 
新生児
乳児
0.03〜0.06mg/kg/hr
0.12〜0.36mg/kg/hr

c)プロポフォールによる方法
ミダゾラムに比べて調節性に富んでおり、耐性も少ないが、小児に対する安全性は確立していない。脂肪乳剤のため肺障害等の可能性に注意。
 
軽度鎮静
中等度鎮静
1〜3mg/kg/hr
3〜6mg/kg/hr

d)当施設における投与方法
 

フェンタニル6A(600μg)+ミダゾラム2A(20mg)+ベクロニウム3A(12mg)
/全量で24ml
→0.1ml×体重/hrを基本投与量とする、筋弛緩薬から止める。

メモ23)筋弛緩薬投与の問題点→漫然と長期投与しない。
・喀痰排泄能の低下
・筋運動消失による静脈還流悪化、浮腫形成
・長期投与によるpharmacological denervationの危険性参11)

参11)Hansen-Flaschen, Neuromuscular blockade in the intensive care unit. More than bargained for. Am Rev Respir Dis 147 : 236,1993

 

2.気道ドレナージ

・気道吸引によるドレナージは人工呼吸管理中に不可欠な事項であるが、気道吸引による刺激が、気管支攣縮や肺高血圧クライシスのトリガーとなる可能性や、感染機会となる可能性を考慮する必要がある。
・小児でも気管支ファイバーによる直視下の吸引が用いられるようになっており、より効果的と思われる。
・粘稠痰に対するドレナージを容易にするために気道トイレッティングを行うことがある。
 

生理食塩水、1/2生理食塩水 0.1ml/kg/一回量

 

3.肺理学療法(別項で述べる)


 

前項目
B.循環管理処置各論
−2.気道確保

呼吸の管理・目次

次項目
B.循環管理処置各論−4人工呼吸器